バイオキャリアを考える。企業、アカデミア、理系女子!

       
2402 VIEWS
CATEGORIES:phd
10473866_10202053344654777_8920918624411469851_n

Taichi

Sep.05.2015 - 06:01 pm

アメリカ企業で働きたい!

キャリアディベロップメントのために留学したい!

仕事もしたいし、子育てもしたい!

そんな日本人が増えてきた、という話を、アメリカの非営利団体Japan Bio Community (JBC) 主催のバイオキャリアトークで耳にした。

 

科学が好きだから理系の学部や大学院に進んだのはいいが、好きな研究を続けていくことは簡単ではない。

どこにいけば好きな研究を続けられるのか?

企業とアカデミアの研究は何が違うのか?

結婚して子育てするためにはキャリアを捨てるしかないのか?

自然科学、医学、バイオテックを専門とする悩める理系学生、研究者を対象にシリコンバレーで開催されたバイオキャリアトークに参加してきたので、1. インダストリーでの研究、2. アカデミアでの研究、3. 理系女子のキャリア、について自分の経験を踏まえてまとめてみた。

 

1.インダストリーでの研究

999072_838985898430_240485780_n

政府の研究者は国の言いなり、企業の研究者は会社の言いなり、大学の研究者は好きなことができる!

大学教授を目指している大学院生である自分は、こういった偏見をもっていた。アカデミア外でもやりたいこと、好きな研究ができる場所は存在する。このキャリアトークに参加してよくわかった。

大手の科学機材・試薬メーカーで働くS博士は、PI(グループリーダー)として会社の定めた範囲内でプロジェクトを好きにデザインしている。確かにアカデミアほどオープンな研究はできず制約があるが、人材、資金面で、その辺の教授より研究に没頭できる環境が揃っているようだった。会社のビジョンと自分の研究ビジョンが合致しているなら、自分で資金調達し、授業を教え、生徒を指導しなくてはならないアカデミアより、研究に専念できるのかもしれない。

もっと自由に研究ができるのはバイオベンチャーとして会社を作ってしまうことかもしれない。アカデミアに進むつもりで、教授職のオファーをいくつももらったO博士だったが、あるきっかけでオファーをすべて蹴り、ベンチャー企業を立ち上げた。科学者と経営者の思考は似ているらしい。実験のうまさ、経営のうまさは、ポイントをうまく抑えること。自分でできること、専門家に任せるべきことの判断のポイントやリスクの認識など、たくさんの失敗から経験で身につけたという。

必ずうまくいかないことがある。失敗の方が多い。リスクだってある。でも理屈ばかりじゃない。失敗を繰り返しても、もう一度立ち上がれる人間、「まぁ食っていけるだろうぐらいの性格のやつ」がバイオベンチャーには向いているんだと話していた。

 

インダトリーが欲しい人材とは?

少なくとも自然科学分野の大学院では基本的にアカデミアの研究者を育てる。インダストリーの経験が乏しいアカデミアの人間が指導者なのだから当たり前かもしれない。そのため大学院生の多くはインダストリーで求められる要素がわからないまま学位をとり卒業する。

一番大事なのは企業側とのマッチングだという。企業がどんな人材を求めているか正確に理解し、それに合わせることが大事だと話していた。例えば、企業がトランスジェニックマウスを作成する技術者を求めていたから、それまで経験がなくても研究につなげて短期でトランスジェニックマウスを作り、求人の募集内容と一致させることで仕事を得たという強者もいた。

企業でも、アカデミアでも、新たな人材を募集する際、求める内容(Job description)の広告がでる。話を聞く限り、アカデミアより企業の方が自分のスキルや経歴を募集要項に合わせる必要性があるという印象を受けた。またインダストリーの研究部門はアカデミアのトレーニングでもS博士のように活躍できるが、開発部門は企業経験が不可欠だとも話していた。

アカデミアでは自分を欲してくれるポジションを探し、インダストリーでは自分を相手のニーズに合わせる、といった感じだろうか。

 

2. アカデミアでの研究

11312860_10100196691769970_614738229172842354_o

大学の教授職を得るためには、最低でも博士(PhD)が必要であり、数年間ポスドクと呼ばれる研究職でさらに経験を積み、大学に応募するという流れが一般的である。

前述したように、アカデミア研究の最大の魅力は自分の好きな研究テーマで食っていけるところであると思う。その反面、民間企業、財団、政府から研究資金を調達する必要があり、大学によっては研究と並行して授業を教えることに時間を割かなければならない。

現在カリフォルニア大学で教授として活躍しているMD PhDのN博士。日本で医師の資格をもっているが、アメリカで博士をとり、5つ以上の国家試験を突破し、アメリカでも医師資格を取り直した努力家である。年齢なんて関係ない、やりたいことをやれ!とその熱意が伝わってきた。

また現在カリフォルニアでポスドクとして活躍し、日本で医師資格を持っているMさんが力説していたのは、アメリカで給料を獲得する大切さだ。ポスドク留学は、日本政府(海外学振)からの支援を受けるのが主流である。日本人はお金がかからないと思われているのが悔しいと話していた。優秀な日本人プロ野球選手がメジャーリーグから莫大なオファーを貰えるように、現地で給料を獲得することの大切さを説いていた。

自分の研究テーマは誰にも譲れない、その情熱と覚悟があるならアカデミアに進む価値があるのかもしれない。

日米アカデミア就職の違い

アメリカの大学に就職が決まると、スタートアップ資金と呼ばれる研究資金が大学から支払われ、Assistant Professorとしてすぐに自分の研究室を持つことができる。業績によって昇進が決まり、若くしてTenure Professor(終身雇用)に上り詰めることも可能だ。

日本の大学に就職が決まると、同じく大学から研究費が支払われるが、自分一人の研究室を持つことはかなり稀である。より職歴の長い先輩先生と二人一組で一つの研究室に所属する。業績によってすぐにTenure Professorになれるわけではなく、先輩先生が定年などで退かない限り、若い先生はTenureをとれないのが普通である。

アメリカも日本もコネは大学就職においてもちろん大事であるが、ここにも違いがある。アメリカの大学は人材を大学外から業績を重視して公募することが多いが、日本の大学は人材を学内から、また知り合いを通じて得る場合が多い。また日本の先生の方が雑務、授業量が多いという話をよく耳にする。研究資金調達は年々世界的に難しくなってきているが、アメリカの研究費の方が大規模で種類も多い傾向にある。もちろん日本でも世界トップレベルの先生は多くいる。しかし、トップを除くと、時間、研究費面でアメリカのアカデミアシステムの方が 研究環境が整っているように感じる。

 

3. 理系女子のキャリア

o0800060012666733704

少なくとも生物学の分野では大学院生の男女比はほぼ変わらないのに、企業研究者、大学教授の多くはまだまだ男性の方が多い。Women in Scienceといって、科学をする女性が科学を続けていく難しさや雇用時の性差別などが最近問題視されている。

子供を産むことは女性にしかできない。そのため子供が欲しい場合、育児は分担できても、産休をどうしても避けられないのは女性である。キャリアへの悪影響を避けるため、どの時期に子供を産むべきか悩む女性研究者は多い。また幼い子供の子育てをしながら仕事をするためには、育児施設の活用するのが一般的で、周りの人の理解、社会の理解が不可欠となる。

Aさんは結婚をきっかけに研究を離れたが、子育て後、長いブランクがあったにもかかわらず、研究に復帰し、大手の科学系企業で活躍している。それを可能にしたのは彼女のコンピュータープログラミング(bioinformatics)スキルである。プログラミングの大会で上位入賞を収めたことで、そのスキルを証明した。研究者として誰にも負けない知識、経験、スキルを持っていることは男女の壁を越える強みである。

そんなAさんをはじめ、他の既婚女性研究者が語る、理系女性への一番のキャリアアドバイスは、「いい夫を選ぶこと!」。会場を沸かしていた。一緒に育児をし、お互いの仕事を尊敬しあう関係こそがカギらしい。

 

日米の理系女性の違い

アメリカ、特にカリフォルニアは女性研究者として生きる道がある。例えば、子供を託児所から引き取るために仕事を早退することは社会的に認められている。うちの研究室でも子供をもつ男性や女性はミーティングやセミナーがあっても平気で抜けてさっさと帰るし、企業でもそれが当たり前だという。託児施設が会社に付属している例もあるらしい。

日本で子供のために帰るのは女性であることが多い。日本で、子育てと仕事を両立している女性は、一線を退いた女性か、すべてを捨てた女性だったという。どっちにもなりたくないから、アメリカに来たというエピソードも話してくれた女社長。まだまだ日本(アジア)では男は仕事、女は家事・子育てという古い文化が根強く、変わるのにはまだ時間がかかるのだろう。

産休制度も日米で違いがあり、カリフォルニアの方が仕事に復帰しやすいらしい。例えば、産休後、仕事をするペースをこれからどうしたいか上司に直接聞かれるのだという。子供ができて、仕事のペースを落として働きたいか、それとも今までと変わらずバリバリ働きたいか。働いている女性側が選べるのだ。これは会社側にも女性社員にとってもメリットのある会話だと素直に思った。

日本でも自分の世代は共働きの夫婦が多く、男女関係なく育児をする新しい文化が生まれてつつあると信じたい。しかし、少なくとも今は、アメリカ社会(特にカリフォルニア)の方が女性キャリアへの理解があるようだ。とは言っても、アメリカでもまだまだ問題は山積みなのが現状だ。企業・アカデミア問わず、性差別が存在するという事実の認識、仕事と育児を両立させる選択肢の認識や議論が、解決への第一歩だろう。

 

編集後記 

キャリアトークに参加して、バイオキャリアの先輩たち、それを目指す日本の学生たち、バイオなんて関係ない投資家や起業家たちに出会った。年齢、性別、育った環境、専門分野、目指すもの、 そんなものが全く違っていても、やりたいことをやりながらお金を稼ぎ、人生を楽しんでいる人たちと、共感できる「何か」を感じることができたのはすごく自信になった。

その「何か」とは、この世界をより良いものに変えてやるという情熱であったり、夢や目標のためにだれよりも努力できることであったり、普通はなかなかとれないリスクをとる勇気だったり。自分は「これが好き」、「こんなことがやりたい」というものを見つけたのなら、周りになんと言われようと、何度失敗を繰り返しても、胸を張って前に進み続けるべきだと背中を押された気がした。

バイオキャリアに興味があるかどうかに関係なく、選択肢が存在していることを知る大切さ、キャリアの先輩から学ぶことの価値、を少しでも伝えることができたらなら幸いである。

(*この記事の内容は個人的な意見・感想で書いたものであり、JBCのキャリアトークやその思想を反映するものではありません。)

       

Taichi

UC Berkeley、生物学のPhD programに通う大学院生です。ネズミと腸内細菌をつかって「共生」をテーマに研究をしています。日本の外にはいろんな人や常識が存在するということを発信していければと思います。