教壇から見るUC Berkeley:なぜアメリカの学生はよく勉強するのか?

       
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Taichi

Nov.05.2015 - 02:29 am

欠席の言い訳で一学期におじいちゃんが3度も死ぬ学生。

クラスメイトに宿題の内容を偽って教える学生。

テスト前になるとメガネ、ノーメーク、スウェットに変身する学生。

 

なぜ、あからさまな嘘をついてまで欠席を嫌がるのか?

なぜ、同期の学生の足を引っ張るような行動をするのか?

なぜ、年頃の大学生がテスト前に女を捨てるほど必死になるのか?

 

それは、アメリカの大学では成績が将来の進路を左右するほどのものだからかもしれない。

 

日本の大学を卒業し、アリゾナ大学で4年間、カリフォルニア大学バークレー校で2年間、大学院生(Teaching Assistant)として授業を受け、教えた経験から、

1. アメリカの大学生がよく勉強する理由

2. アメリカの授業が大変な理由

3. 学ぶ環境の探し方

について自分の考えをまとめてみた。

 

1.なぜアメリカの大学生はよく勉強するのか?

その一番の理由は、希望の就職・進学を叶えるため、よい成績が必要だからであろう。

アメリカでは、法学部、医学部、獣医学部、薬学部などは大学の学部では専攻できない。そのため、それらの分野を希望する学生は、4年生大学を卒業後、プロフェショナルスクールや大学院に進学し、専門知識を学ぶ。進学先の受験では一般的に、成績、テスト、課外活動で評価されるため、大学時代の成績は受験の競争に勝つために大事な要素になる。例えば、競争率の高いPre-Medと呼ばれる医学学校を目指す学生は、冒頭の宿題内容を偽って友達に教える学生のように、足の引っ張り合いが日常茶飯事だという。定期テストの過去問を友達と仲良くコピーし、悪い意味で助け合っていた日本の大学時代の自分とは真逆である。

企業就職でも大学時代の履修科目、成績は大事な要素の一つである。日本企業が新卒の学生を育てる文化と違い、アメリカ企業は即戦力を求める傾向にある。そのため、どのようなクラスをとり、どのような知識・スキルを持ち、どのような成績で卒業しているか、採用の要素にされる。例えば、バークレーのある有名なプログラミングのクラスをトップで卒業するとその教授を通じて一流のIT企業からオファーがくるという噂を聞いたことがある。大学受験は頑張ったが、入学後は全く勉強せず、バイトとサークル活動だけ頑張って、一流企業に就職した日本の先輩とは異なる就活アピールポイントである。

成績がほぼ無意味な日本の大学。成績が将来を左右するアメリカの大学。親から高い学費を払ってもらって得た4年間の学問を学ぶ機会を活かさない傾向にある日本の大学生。成績や進学に有利な課外活動に気をとられすぎて、遊ぶことの大切さを忘れがちなアメリカの大学生。バイトやサークル活動を通して日本社会で生きていく術を学ぶ日本の大学生。知識やスキルを身につける楽しさや苦しさを学ぶアメリカの大学生。どちらがよいと議論したいわけでなく、アメリカの大学生の方が勉強せざるをえない理由、進学・就職するために勉強する理由があると思うのだ。

勉強したことが評価され進路につながりやすいのは、日米の社会制度や文化の違いの一つかもしれない。

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(哺乳類学でネズミの解剖、博物館標本作りを学ぶ生徒たち)

 

2.なぜアメリカの大学は宿題、小テストが山盛りなのか?

日本とアメリカの大学授業の一番の違いは、生徒が授業外で費やす勉強量であると考えている。もちろん日本でも予習復習しているまじめな学生はいるが、アメリカの学生の場合、単位をとるためには予習復習せざるをえないシステムができあがっている。例えば、毎週宿題がだされ、小テスト・クイズが頻繁にあり、授業外に勉強せざるをえない。ディスカッションのクラスに至っては、課題のリーディングをやらずに授業に出席してもみんなが話している内容がさっぱりわからない。授業が答え合わせという感覚である。

授業外に勉強することが新しいことを学ぶ上で大切なのは明白だが、なぜこれを日本の大学で実現できないのか?一つは、宿題を出しても生徒がまじめにやらない可能性だ。前述したように日本では成績が進路にあまり影響しないため、良い成績をとる意味がなければ、単位をとる程度の勉強しかしない学生がいても不思議ではない。もう一つの理由は、日本の大学の先生がやりたがらないためだろう。先生の身になって考えてほしい。ただでさえ忙しい雑用に加え、毎週、宿題・小テストの問題を考え、採点し、講義をするのは思っている以上に大変である。大学経営上、人件費の高い教授にこれを全部やらせたら破産してしまう。その上、日本の大学は留年者数が増えることを嫌うので単位を落としにくい。

アメリカでは教授の負担を減らす解決策として、人件費の安い大学院生をTeaching Assistant (TA)として雇っている。例えば、自分は今季約800人の生徒が履修している一般生物学のTAをしている。3人の教授が交代で週に3回大講堂で講義を行い、40人近いTAがそれぞれ約20人の生徒を対象に週に1回4時間の実験、質問に答えるオフィスアワーを受け持つ。これに加え、TAがほとんどの宿題、小テストの作成、採点をしている。40人ほどの小さなクラスでも、TAを利用することで、コスト下げながら、質の高い授業を可能にしている。これに加え、生徒が先生を評価する成績表(Teaching evaluation)があり、評価が悪いと二度とその授業を教えることができなくなるなど、授業の質を保つシステムがある。

TA制度があるからこそ低コストで宿題・小テスト・ディスカッションなど盛りだくさんにすることが可能で、授業の質を上げることができるのだ。

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(哺乳類学2泊の野外調査。スカンクを捕まえその生態を学びつつ逃げ惑うクラス一同)

 

3.一番苦しい環境こそ、一番成長できる環境である

2016年全米公立大学ランキングで1位のカリフォルニア大学バークレー校と、58位のアリゾナ大学を比べて、学生に違いはあるか?とよく周りに尋ねられる。当たり前だが大学に関係なく、クラスにはよくできる生徒とよくできない生徒は必ずいる。しかし、自分の勝手な印象だが、よくできない生徒のレベルが少し違うことにも気づく。例えば、アリゾナ大学で一番成績の悪かった生徒は、授業に来なかったり、課題をやらなかったりするタイプの学生である。しかし、バークレーで一番成績の悪かった学生は、時間は使っているのに、結果がでない学生である。勉強の仕方がわからないと自分で認識し、オフィスアワーに尋ねてくるぐらいだ。

今でも印象に残っているもう一つの例は、A,B,C,Dの4段階評価で、Cをとったバークレーの学生が放った言葉である。「I’m not this kind of student」(僕はCをとるような学生じゃないんだ)。高校時代Aしかとってこなかったエリートが、バークレーに入学し、同じように他の高校のエリートたちと出会い、初めて自分より頭のいいやつがいると知った瞬間である。このような生徒にどれだけクラスの点数の分布を見せて理論的に説明してもなかなか理解してもらえない。

「自分がクラスで一番バカだと思うなら、それは君が一番成長できる環境にいるんだよ」と、このような生徒によく言っている。むしろ簡単に一番をとれる環境では、成長をすることは難しいからだ。自分も大学院留学当初は、自分の英語能力と専門知識のなさに絶望した。今はそこでもがいた日々が人生で一番成長した時期だったと胸を張って言える。だからこそ頑張ってるのに結果がでない学生には特別な思いがある。

一番成長できる環境は、一番恥ずかしく、苦しく、チャレンジできる環境だと信じている。

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(留学したからこそ得られた研究室の仲間と砂漠で野宿しながら野生ネズミ採集)

 

最後に

アメリカの大学は比較的簡単に入れるが出るのは難しい、とよく聞くが、おそらく本当だろう(自分は入るのも苦労したが)。アメリカの大学の価値は、入学の難しさより、卒業生の質で決まるので、平気で単位を落としたり、留年させることをなんとも思わない。せっかく好成績で卒業しても留学生の現地就職は難しいとも聞く。 海外大学・大学院留学を考えている日本の学生は、それなりの覚悟が必要ということだ。

しかし、恐れる必要はなく、大学で思いっきり何かを学んでみたいと思うなら、アメリカの大学教育環境は魅力的である。多様な目的、年齢、人種、バックグラウンドで学生をしている仲間との出会い、切磋琢磨する経験、学ぶ知識は、学位取得後、どんな進路を選んでも人生の財産になることは間違いない。本気で学びたい人には、日本の大学教育文化以外に、アメリカの大学教育文化という選択肢が存在することをこの記事を通して少しでも知ってもらえたら幸いである。

(冒頭の写真はLotka-Volterra方程式を使い捕食者と被食者の個体群変動を理解する一般生物学の授業風景)

       

Taichi

UC Berkeley、生物学のPhD programに通う大学院生です。ネズミと腸内細菌をつかって「共生」をテーマに研究をしています。日本の外にはいろんな人や常識が存在するということを発信していければと思います。